Toshihiro Kaneshige

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ベートーヴェン「ディアベッリ変奏曲作品120」について

東京藝術大学演奏芸術センターの広報担当准教授である阿南一徳先生よりベートーヴェンのディアベッリ変奏曲作品120について以下の3つのご質問を受け、お答えいたしました。

1220日のリサイタル開催に際して期間限定で公開いたします。

 

①この曲の魅力は?

 

②この曲の楽しみ方は?

 

③この曲をピアニストが選ぶ理由は?

 

①この曲の魅力は決して一言で言い表せませんが、あえて言葉にするなら、(後期の一連の弦楽四重奏曲と並んで)ベートーヴェンの作品の中でも最も多面的であり、「面白い」作品の一つであることだと思います。

ベートーヴェンが「靴屋の皮の切れ端みたいなもの」と評したワルツから生み出された33の変奏の個性は極めて強く、ユーモラスなもの、愛情に満ち溢れたもの、怒りを感じさせるもの、深淵なもの、即興的なもの、即物的なもの、観念的なもの、崇高なもの、自然への礼賛を感じさせるものなど、言葉にしてしまうと少し陳腐かもしれませんが、大天才であるベートーヴェンという人間の頭の中を覗き、彼に少し近づけたような感覚に陥る面白さがあると思います。

また、響きの多彩さという観点からみても、様々な楽器の響きが聴き取ることができることはもちろん、ルネサンス時代の響きを彷彿とさせるもの、バッハやヘンデルへのオマージュ、またドビュッシーの到来を聴き取ることができる変奏もあり、一曲の中で様々な時代を超越し、行き来するような面白さがあるのもこの変奏曲の魅力です。

そして、(当然のことながら)それらの変奏がつぎはぎにならず、オペラのようにストーリーが発展していく巧みさも兼ね備えています。

まさに、ベートーヴェンの哲学・音楽的叡智の集大成であり、彼という人間そのものを聴くことができる作品と言えるのではないでしょうか。

 

②楽しみ方に関しては、それぞれのお客様の受け取り方次第ですが、ベートーヴェンはディアベッリ変奏曲と同時期に作曲したミサ・ソレムニスのキリエの冒頭にこんな言葉を記しています。

Vom Herzen―Möge es wieder zu Herzen gehenー心から、願わくば、心へ還っていかんことを」

ベートーヴェンは音楽を通して人間一人ひとりの内面と、それを取り巻く環境・社会が本質的な意味で豊かになることに願ったとても大きな人間だったと思います。彼の心の内奥を、200年を経て尚、演奏を通して聴いてくださるお客様の心にメッセージとして還すことができたならば、演奏者としてはこの上ない幸せです。

 

③とにかくどこまでも魅力的な作品だから、というシンプルな理由です。

また、ベートーヴェンを尊敬する者としては10代の頃からハンマークラヴィアソナタやその後の3つのピアノソナタと並び、登ってみたい大きな山の一つであり、いつか弾いてみたいとずっと思っていたからです。